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短編「ストーキング・プロフェッショナル」

 窓の光を反射して輝く彼女の白いうなじをそっと、静かに、私は捉えた。その輝き。何者にも侵されない美しさそのもののホワイト。

 丸テーブルにたてかけた、少し大きめの丸い鏡の前で、彼女はそっと自分の長い髪をなではじめる。まるで愛しい子供の頬をなでるように。その黒髪は、あらゆる汚れを絶つようなまばゆいばかりの黒髪だった。確固たる意志をもっているかのようなブラック。

 その黒髪の一部が、そっと白いうなじへと流れ、ふりかかった。そこに存在する白と黒の完璧な対比を私はしっかりと窓の外からのぞきこむ。この対比。この完璧な対比。私はこれを、私の雇い主に報告できることに喜びを感じた。それがいかにこの世界から隔絶された、「完全」なのかということを、雇い主に知ってもらうことは、私の使命の一つだった。
 
彼女はそっと立ち上がり、彼女が身にまとっているシャツを静かに上へとたぐり寄せていく。黒髪とシャツが摩擦をおこしている様子を私は静かにじっと窓の外からのぞきこむ。やがて彼女の体から離れようとしているシャツのすべてが彼女の後頭部に集中する。シャツをもつ彼女の両の手が上方へと放たれる。それと同時に、シャツに摩擦で、はりついていた彼女の見事な黒髪のすべてが、天上から彼女の背にすっとふってきたかのようにながれ落ちた。彼女の美しい背の肌がもつ白とながれ落ちた長髪の黒の完璧なる対比は、まさに美、というほかなかった。

 私は、そこに新たな色の発見をする。彼女から発せられている白と黒の間にピンクのラインが見えたのだ。それがいったい何なのかはすぐにわかった。彼女が「こちら側」に体を回転させたからである。彼女の背に見えたピンクのラインは彼女の胸元を覆っているピンクの布の一部だった。そのピンクの布は、とてもよくピンと張っていた。布の上方には、確かな黒とは言い難いが、とても濃い灰色の線がみえていた。ピンクの布の下からつきあがっている二つの盛り上がりの間からひかれたその灰色の線は、何か、のぞいてはいけない秘密を抱えているようだった。その深淵とも言うべき灰色の線を形成する、つきあがった白の二つの盛り上がりそのもの、秘密の原因を暴くために、私は窓の外から彼女を観察することを雇い主に命じられたのだという、どこか確信めいた強迫観念にとらわれた。

 彼女は私がいる窓の外側を、目を細めて見はじめた。そして彼女は、はっとし、あわてた様子でテーブルの方にかがみこんだ。ピンクに支えられた二つの盛り上がりが、彼女のかがみこむ方向に同時に吸い寄せられている様子をわたしはしっかりと捉えた。やがて、彼女は黒い縁の眼鏡をかけて、窓の外に向かって目を見開いた。その目線は私の「目」と「体」を捉えていた。それは明確だった。私の目線と彼女の目線は寸分違わず一致していたからである。彼女は一瞬完全にかたまった。そこにうまれた静寂。彼女のもつ肌の色、白のように何者にも侵されないその静寂を、私は完璧にとらえ、記憶した。

 しかし、その静寂は本当に一瞬のものだった。彼女は狭い窓の内側を、ダッという鈍い音を発しながら走り、窓の外側と内側を断絶するカーテンに手を伸ばし思いっきり閉じて、私と彼女の目線の交差を断ち切った。その時の彼女の表情は、閉じられたカーテンのしわのように、歪んでいた。

 しかし、私は、彼女のもつ完璧なる白と黒と、ピンクと、そして、秘密の灰色の線を明確に記憶していた。いや、記録していた。私は雇い主に讃えられる仕事をしたと、確信した。・・・彼女にみつかってしまったのは不覚だったが、彼女の観察をはじめてから10分は過ぎており、私の力もつきかけようとしていた。それに、私は彼女に発見されたことになんの焦りも感じていなかった。やがて、私は風にふかれて上下左右に枝と葉をゆらしている木々の間を通りぬけ、雇い主のところへと戻った。雇い主は、スマートフォンと、スティックが2つついた、四角いものを手に持っていた。やがて、スマートフォンを見つめていた雇い主は、微笑みを浮かべながら、そっと顔をあげて私のほうに視線を移した。スマートフォンに私の雇い主自身が映りはじめたからであろう。雇い主は、私を静かに彼自身の足下にそっと降ろした。そして、私をさっと持ち上げ、引き寄せて、私を少しなでながら、ささやいた。

「今日も、お疲れさま。でも、ついに、みつかってしまったな。もう、彼女の部屋の窓の外から彼女を見つめることは、できなくなってしまった・・・。まあ、しかたがない。しかし、君はすばらしいものを記録しつづけてくれた。本当にありがとう。ああ、それにしても、すばらしい、発明だ。君という存在は、本当にすばらしい発明だ」

 ささやき終えると、私の雇い主は、すぐに私を、私がいつも待機している箱の中へといれてくれた。その箱の外側には、私の姿が印刷されていた。4つのプロペラと、彼女のことを記憶、いや、記録するための、私の確固たる目、カメラを装着した、世間では「ドローン」と言われている、私の姿が。(了)
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