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ショートストーリー「ギャル IN 0.02」

目を覚ましたら、視界がぼやけていた。・・・首が痛む。どうやら、頭の重さに耐えられなくなり、カクンと前に首がいってしまったためだろう。・・・それにしても、ずっと目の前にみえるものがおぼろげだ。目の前に見えているものが、どうやら女ものの有名なブランド・バッグだということは、特徴的な模様でなんとなくわかるが、とてもぼやけていた。

 寝ぼけているのか?・・・ガタン!と座っていた席に少し振動が伝わる。その振動で、曖昧だった意識が覚醒しはじめた。
 そう、俺は今日も残業をして夜遅くの電車に乗っているんだった。なんとか座ることができたわけだが、今日の仕事の疲れのせいで、座るやいなや、すぐに眠ってしまったらしい。

「次は、N駅N駅です。各駅停車A駅行きはこちらでお乗り換えです」車掌のアナウンスが車両の中で響きわたる。N駅。この急行電車の次の次の駅が、俺が降りる駅だ。よかった。寝過ごしてはいなかったことにほっとした。
 だが、ほっとしたのと同時にいままで感じたことのない違和感を覚えた。俺は焦った。俺はどうしてしまったんだ?
 どうして、俺の目の前の女もののブランド・バッグの模様が、いつまでたってもぼやけたままなんだ?
 俺は、そっと自分の目の方に手のひらを近づける。そして、少し長いまつげが直接手のひらに当たる感触を得た。
 そして、はっとした。やっぱり、そうだ。

 俺が普段かけている、身体の一部ともいってもいい眼鏡がなくなっている。俺は、あまりに激しく首がカクンとなってしまった勢いで足元に眼鏡が落ちてしまったのかもしれない、そう思って、自分の足元を見た。目を細めて。
 しかし、そこに眼鏡は落ちてはいなかった。少しずつ焦る気持ちが芽生えてきた。俺の眼鏡はどこにいったんだ?一体どこにいってしまったんだ?俺は、隣に座っている人にひじなどがあたらないように注意しながら、着ているスーツのポケットの中を探ってみた。しかしどこにも眼鏡が入っているような感触をつかめなかった。俺はビジネスバッグをあけて、中をのぞいてみた。しかし、やはり眼鏡はなかった。・・・俺は少し冷静になろうと、息を少し大きく吸って吐いた。つんと、電車の中に居座っている人の汗の臭いが鼻孔についた。

「次は、M駅。M駅です。お忘れもののないようにご注意ください」いつのまにか、最寄り駅の隣の駅まで電車が到着してしまった。
 目の前にみえていたブランド・バッグが消えていた。どうやら、バッグを持っていた人は、N駅で降りるようだ。
 すると、向かい側に座っている人がみえた。金髪の男だった。でも、どんな顔をしているのかは、全くといっていいほどわからなかった。のっぺらぼうのようにしか見えなかった。

 本当に俺の眼鏡はどこにいってしまったのだろうか・・・。最寄り駅までは5分ほどで着いてしまう。俺は右側に座っている人をちらっとみた。スマートフォンをいじくっている。・・・確か同じ駅で乗って、隣に座った人だったはずだ。あんまりじろじろみたら、よくないとはわかっているが、かなり短いパンツをはいており、綺麗な白い太股を大胆にのぞかせていたので、寝る前に、俺が座った直後に隣に座ったその人、女を少し意識してしまっていたから、間違いない。
 変な目で見られるかもしれないのを覚悟して俺は、太股を露わにしているその女に声をかけた。
「す、すみません」
少し迷惑そうな顔で俺のほうを女はみた。金髪でロング。巻き毛。濃いめの化粧をしている。ギャル系とでもいおうか。でも、隣とはいえ、顔はぼやけて見えるので、どんな顔をしているのか、かわいいのかどうかは、よくわからなかった。
「あの、なんというか、さっきまで僕眼鏡をかけていたんですけど、起きてみたら、無くなっていて。し、知らないですかね?」俺はおそるおそる、尋ねてみた。
 ギャルは、この男は一体何をいっているのかと思ったのか、すこし沈黙が続いた。しかしほどなくして、
「いえ、すみません。わからないです。落としたりしていないんですか?」ギャルは俺に尋ね返してくれた。かわいい声だった。
「そうかもしれないんですが、足元をみても、なさそうなんです」ギャルは俺のこの返答を聞いた後、下を向いた。どうやら俺の足元とその周辺をみてくれているようだ。ぼやけてはいたが、谷間をかなりのぞかせているように見えた。俺は、なんだか見続けるのはいけない気がして、少し視線をそらした。
「すみません、眼鏡、落ちていないみたいです」ギャルは再び俺のほうに視線を戻してそう言った。ぼやけていてもギャルだとわかる風貌だったので、正直少し恐かったが、案外親切な女だった。
「すみません。ありがとうございます」ひとまずギャルの親切に俺はお礼をいった。
「いえいえ。でも、本当にどこにいっちゃったんでしょうね?」ギャルは心配そうな声で言った。
「そうですね・・・」俺は弱々しく答えた。俺は目の前の世界がずっとぼやけていることに不安と焦りをとにかく覚えた。駅を降りてから、家まで徒歩でだいたい20分。俺の住むアパートまでには暗い道が続いているところもあり、そこを眼鏡なしで歩くというのは不安だった。ただ、家に帰れば、スペアの眼鏡がある。前に使っていたもので、さらに目が悪くなってしまった今となっては、かけても両目で0.4くらいにしかならないのだが、生活には困らないから、ひとまず早く、無事に家にたどり着くことだけを考えることにした。

「次は、I駅。I駅。E線はお乗り換えです」車掌のアナウンスが響きわたる。
 もう降りる駅に着いてしまった。俺はそっと立ち上がる。すると、隣にいたギャルも立ち上がった。どうやら、このギャルもこの駅で降りるらしい。
 プラットフォームに降りると、もちろんいつもと同じなのに、そこが、全く違う世界に見えた。もし普段から裸眼で過ごすことになったとしたら、と考えたら、それは全く知らない世界にずぅっと放り出されっぱなしのままになるような、そんな感じになるのではないかと、そう思った。
 目を細めながら出口につながる階段へと足を運ぶ。身体が覚えているので、問題はなかったが、それでも足元がおぼろげの状態で階段をのぼるのは少し怖かった。いつもよりゆっくり階段を上っていくと、腕にちょこんと少しつかまれる感覚がした。後ろをふりむくとさっきのギャルだった。ぼやけていながら、そういうところだけは、目がいってしまう自分が少し情けなかったが、上段からみると胸の谷間をのぞくことができた。なかなかのスタイルをもつギャルだと思った。

「あの、大丈夫ですか?」ギャルは心配そうな声で俺に話しかけてきた。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」俺はそう言った。
「でも、なんか見ていてあぶなくみえちゃって・・・すみません、迷惑だったかもしれないけど、心配になっちゃって・・」ギャルはそう言ってぱっと俺の腕から手を離した。
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」俺は、できるだけにこやかになるように努めてそう言った。それに本当にぜんぜん迷惑じゃなかった。素直に嬉しかった。
「そうですか・・・。家までどのくらいかかるんですか?」ギャルは俺と足並みをそろえて階段を上りながら尋ねてきた。
「だいたい、徒歩20分です」俺は答えた。
「20分ですか?家、どのあたりなんですか?」
「えーっと、DP公園の近くです」
「DP公園の近くですか。そのまわりって暗い道、多いじゃないですか?あの、よかったら、家の近くまでついて行きましょうか?私もDP公園の近くにちょうど住んでいますし!」ギャルは俺の顔をのぞきながら、そう言った。いい匂いがした。
「い、いえ。いいです。そんな申し訳ないですから」俺は少しドキドキしながらそう言った。・・・・まずい。だいぶ俺は、このギャルのことを意識してしまっていた。そして、もしかしたら、このままこのギャルと、知り合えるかもしれないということに、どこか期待感を抱き始めている自分がいた。
「いえいえ。そんな気にしないでください」ギャルは笑顔でそう言った。
「・・・じゃ、じゃあお言葉に甘えて」俺はいつの間にかそう答えていた。

 そして、俺はギャルとともに帰路を歩いた。ギャルは俺の仕事のことなどを尋ねてきた。俺はそつなく答えた。俺もギャルに仕事をしているのかきいてみた。とあるブランドファッションのショップ店員をしているという答えを聞いた。なんだか、みた目通りの職業ですね、というと、そうなんですよ!とギャルは笑った。そんな他愛のない話をしているうちに、俺のアパートに通じるDP公園近くの、狭く、暗い道には入った。本当に、最低だと思うのだが、暗い道をギャルと歩いているうちに、この暗さがまたいけないのだろう、自分のアパートについたら、お礼にこのギャルを家に招いて、お茶などして、そのまま話がはずんで、なんだか、いいムードになって、そのまま・・・なんてことをついつい想像してしまった。電車の中や、階段の上からみた、やわらかそうな胸の谷間や、白い太股が思い起こされた。

 お互いの仕事の話をしているうちにやがて、俺のアパートの前まで来た。
「ここです」俺は言った。
「あ、ここなんですか。本当に私の家もけっこう近いんですよ!よかったです」ギャルはそう言った。
「助かりました。ありがとうございます」俺はお礼を言った。
「いえいえ。そんな、でも大丈夫ですか?眼鏡がないままで、明日とか・・・」
「大丈夫です。家にスペアがあるので」
「あ、そうなんですか!それはよかったです!」ギャルは胸のあたりで両手の指を絡ませながら、そう言った。その仕草がとてもかわいかった。
「あの、よかったら、お礼に、コーヒーでも一杯飲んでいきませんか?」俺は思い切って、このギャルを誘ってみた。
「え?そんな悪いですよ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。コーヒー淹れるのだけは自信あるんです」実際俺は、コーヒーには凝っていた。
「えー。いいんですか?じゃあ、一杯だけ!」ギャルは俺の誘いに応じてくれた。俺は、小さくガッツポーズをした。
「1階の一番奥の部屋が僕の部屋なんです」そう言って、いつものアパートでありながら、ぼやえているがゆえに、やっぱりどうもいつもと違うように見える、特になんの特徴もないアパートの奥へと進んでいった。
 俺は、ビジネスバッグの中から家の鍵をとった。鍵穴にしっかりと鍵をいれるために、顔を鍵穴のかなり至近距離まで近づけた。なんとか鍵穴に鍵をいれることができて、そのままドアをあけた。
「どうぞ」俺はギャルをまず招いた。
「おじゃましまーす」高いヒールを脱いで、おそるおそる俺の部屋に入っていくギャル。・・・正直、すでにまずかった。すこし俺のパンツが盛り上がってきていた。
早くスペアの眼鏡をかけて、ギャルの谷間と太股を、ちゃんと見たかった。
 俺はいつも通り、玄関のところで座って、革靴のひもを丁寧にといてから、ぬごうとした。しかし、視界がぼやけているので、やはりいつもよりも苦労した。

 俺は、はやる気持ちをおさえながら、ゆっくりと革靴を脱ぎ始めた。
 左の革靴をぬいで、次に右の革靴のひもに指をもっていたところで、首もとに衝撃が走った。はげしい電流が体をつたっていくようだった。俺は振り向いた。白い太股と、女が手に持っているひげ剃り機のようなものがみえた。それは、ひげ剃りではなかった。目を細めて、少しでも焦点をあわせて、それをみた。どうやらそれは、スタンンガンのようだった。・・・それがわかったと同時に、またそれが俺の体にあてられた。そこで、俺の視界は、ぼやけるどころか、真っ暗になった―
 
 聞き慣れた音が響いているのが聞こえた。俺はふっと目をさました。目の前に俺のスマートフォンがあり、そこからいつもの目覚ましがわりの音がながれている。俺は、スマートフォンを手に取り、めざまし機能をいつものように終了させた。
 ・・・・ここは、どこだ?俺は、ばっと体をおこして、自分がどこにいるのかを確認した。どうやらリビングにいるようだった。しかし、いつもみる風景では決してなかった。
 とにかく、ぐちゃぐちゃだった。リビングの中にある、なにもかもがすべてあばかれているような状況だった・・・。あばかれている?俺ははっとした。俺は、いそいで通帳やらお金やらをいれているタンス一番下右側をばっとみた。そこからは何もかもなくなっていた。もぬけの殻だった。俺は、リビングの中をとにかく見回した。俺の持っている金目のものがすべてなくなっているようだった。

 俺は混乱した。いったいなにが起こったんだ・・・?確か俺は、ギャルとここまで、きて、そしたら、ギャルが俺に、ス・・・スタンガンを・・・。俺は、はっとした。さっきのギャルは、どこにいったんだ?俺はいそいで玄関までいって、ドアをあけた。・・・いつもの夜の風景だった。なにもなかった。ギャルの姿はどこにもなかった。・・・と同時にもう一つ、俺は違和感を覚えた。
 どうして、玄関をあけた瞬間、いつもの風景と明瞭にわかったんだ・・・?

 俺は、さっき電車の中でやったように、自分の手のひらを目に近づけた。手のひらがまつげにあたることはなかった。むしろ、手のひらににじんだ汗のせいで、視界が、汚れた。そう、そこにはレンズがあった。俺は、また部屋の中に入り、いそいで洗面所にいって、鏡をみた。
 いつもの眼鏡をつけている自分の顏が鏡にうつっていた。・・・何でなくなった眼鏡を俺はかけているんだ・・・・?わからなかった。とにかくわからなかった。・・・と、鏡の右上に、なにかが貼られていた。俺がもっているメモ用のポストイットだった。そこにはかわいい文字でこう書いてあった。「眼鏡、みつかってよかったね!はっきりと目がみえるようになった、今の気分は、どう(笑)?」

 俺は、そのメッセージを読んで、とにかく怒りと後悔がこみ上げてきた。俺はリビングに再び足を運んだ。もしかしたら、眼鏡を外したら、世界が変わるかもしれない。そんな馬鹿なことを考えて、眼鏡をはずして、裸眼の状態でリビングをみた。

 やっぱり、ぐちゃぐちゃのままだった。

 もう、眼鏡があろうとなかろうと、そんなことはどうでもよかった。

 俺はただ、この現実から目を背けたかった。
 
(了)
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