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ショートストーリー「真(まこと)の遺書」


あるところに偏屈で我儘で人をいじめるのが大好きな大手商社勤めの幹部クラスの男がいました。男は、何事も自分の思い通りにならなければ気が済まなく、仕事のやり方、顔、しぐさ、髪型、スーツの色など、とにかく自分が少しでも気に入らないもの、ことを持っていたり、していたりする社員がいたら、無理やりそれを直させたり、いじめたり、他の社員よりも多くの仕事を与えたり、意味もなく叱責したりして、部下を我が物顔で扱っていました。
この男は、家庭ももっていました。家庭でも同じようにふるまっていました。妻が少しでも、この男の気に入らないことをしたり、料理を作ったりすると、いつも頬を思いっきりたたいて、やはり直させたり、料理を作り直させたりするのでした。この男には子供もいました。子供にも、しつけだ、ということで、やはり少しでも男の気に入らないことをしたら、思いっきり頬をたたくのでした。子供は、いわば自分が製造している機械だと男はどこかで思っていました。商社では普段できない「製造業」を家でしている気分だったのです。

そんな男は、ある日調理された毒キノコをたべてしまい、あっけなく死んでしまいました。


大手商社の重役であったため、男の葬儀には数多くの社員が押しかけてきました。

妻が葬儀に集まった社員や親族たちに挨拶をするために、マイクスタンドの前にたちました。

「皆様、今日はこんな我儘で横柄で暴力でしか物事の解決方法をしらないような、デブで禿で、妖怪みたいな顔をしていた夫のためにお集まりして下さり、誠にありがとうございます。夫は、自分に万が一のことがあったときのために遺書を残しておりました。読み上げます。

『私が死んだら、死んだ世界で寂しくならないように棺桶の中には、私の好物のソーセージ、村上龍の小説、オアシスのアルバムすべて、甘いお菓子、エロ本10冊ほどをいれておけ。それから私が書いていた日記と、私が稼いだお金を入れておけ』

このように書いてあったのですが、私たち親族は、ソーセージのかわりに男性性器をかたどったゴムのおもちゃ、彼が大嫌いな村上春樹の小説、ブラーのアルバム、辛いお菓子、それからBL本10冊をいれました。それから、彼の日記、そして彼の稼いだお金をあらかじめ燃やして、そこから生じた灰を彼の身体全体にまき散らしておきました。

お集まりしてくださった皆様にお願いがございます。灰はちょっと風が吹くだけでぶわっと舞い上がってしまいます。舞い上がらないように、どうか皆様、夫の死体に覆いかぶさっている灰にむかって、唾をとばしてください。そうすれば、きっと灰は風でとばなくなるでしょう。

お忙しい中大変恐縮ですが、どうかご協力ください。改めまして皆様今日はお集まりして下さり、誠にありがとうございました」

集まっていた社員や親族はみんな拍手をし、皆ありったけの力で、幸せそうな顔、怒りに狂った顔、安堵の顔を浮かべながら男に覆いかぶさっている灰に向かって唾を吐きました。

唾を吐き終えた社員たちは、別の葬儀場に足を運びました。

実は、同じ日に、この男と同じポジションにいた別の幹部の男の葬儀も行われることになっていたのです。

その男は、皆に優しく、いつも社員たちを気づかい、アドバイスやフォローをしてくれ、社員のモチベーションをあげる努力をし、信頼し合える関係を築き上げている男でした。いつも他人を思いやる男でした。この男にも家庭がありました。妻の作った料理やすることに何一つ文句を言うことはありませんでした。とにかく妻を信頼していました。とても優しく凛々しいその男のために、妻はその男の信頼にいつも答えようと努力していました。それが、妻の幸せでした。この男にも子供がいました。男は子供にもとても優しく接しました。時にはしっかりと怒ることもありましたが、それはとても愛情に満ちたものでした。とても大切に、たいせつに子供を育て、家族を守っていました。

そんな男はある日、不慮の事故で死んでしまいました。突然の訃報に皆驚き、悲しみました。

妻が葬儀に集まった社員や親族たちに挨拶をするために、マイクスタンドの前にたちました。


「皆様、今日は、夫のためにお集まりして下さり誠にありがとうございます。皆様に支えられていたからこそ、夫は会社で頑張って仕事をできていたのだと思います。どんなに感謝の言葉を申しましても足りません。夫はとても優しい方でした。いつも私たちのことを考えて接してくれていました。私は、こんなに素敵な夫と共に過ごせたことをとても幸せに思っています。

夫は、万が一自分に何かがあったときのために遺書を書いておりました。読み上げます。

『私にもしものことがあったら、私の全財産は、もちろん家族のもとへ。そして、会社の社員に、ありがとうと伝えてください。私は、いつも幸せです』

皆様がご多忙だとはご承知の上でお願いがございます。どうか夫の顔をみてやってください。とても、幸せそうに笑っておられます。その笑顔は、彼の人生そのものです。私の人生そのものです」

社員たちは涙しながら、男の顔をみては、合掌をしていきました。

すべての社員たちが、合掌を終えたあと、代表者として一人の社員が、なにやら重たそうな木箱をもって、妻の前に立ちました。

「奥様、本当に私たちはあなたのご主人に感謝しています。本当にすばらしいお方でした。この方なしでは、私たちはここまで仕事を頑張っていけなかったと思います。ご迷惑でなければ、ご主人の棺にこの木箱の中に入っているものをいれていただけませんか?僕達の精一杯の感謝の気持ちです」

妻は涙しながら感謝しました。「ありがとうございます。中身をみてもよろしいですか?」

代表者の社員は木箱を開けながら言いました。

「ここに入っているのは、ご覧のとおり、先輩が大好きだった、ソーセージ、村上龍の小説、オアシスのアルバム、甘いお菓子、そして、彼のデスクに飾られてあった、どこかの公園で奥様と子供と先輩が一緒に笑顔で写っておられるお写真です。少しでも、先輩が天国で寂しくならないようにと私たちで用意しました。どうかお納めください」

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