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ショートストーリー「Under My Utopia」

今日も、猛烈に照っている日の光を浴びながら下を向きぼんやりと僕の身体の影を地面に落とす。今日は、2限と3限だけだから、すぐに家に帰ることができる。それだけが、僕にとっての救いだった。

だからといって、帰っても特にやることなどない。ただ、同年代の学生たちが巻き起こす喧騒と、このどうしようもない暑さと、日光から逃れたいだけ。僕には、皆が感じているような喜びとか楽しさとか、幸せとか、そういったものがよくわからない。ただ、うれしいという感情というものを僕の中にもたらすものがあるとしたら、それは、独りでいられる時間、なのかもしれない。

僕は、これまでの人生を、ずぅっとただ何となく、流されるまま生きてきた。・・・いや、幼いころは、いろいろなことに興味を持っていた、とは思う。それをしっかりと両親にも伝えた、・・・いや、伝えようとした。でも、ほとんど両親は家にいることはなかった。
両親は共働きをしていた。僕と過ごす時間よりも、自分の時間を、大切にしようといつも心がけているようだった。僕は幼いながらも、そういう両親の態度を感知し、僕は両親に遠慮するようになった。・・・でも、一度だけ勇気を振り絞って、近くにある市民プールに連れて行ってといった。しかし、両親は、笑顔をみせてくれたものの、「ごめんね、パパもママも忙しいのよ。また、今度ね」と言って結局僕をその場にたたずませたまま、また仕事へといってしまった。

ただ、両親は、僕に学力はしっかりとつけさせたかったらしく、僕を小さいころから、お受験塾に通わせ、一流の小学校にいれさせようとしてくれた。僕は、頑張った。はじめて、両親が僕にかまってくれているような気がしたからだ。頑張って、一流の小学校の入学試験に合格すれば、きっと、ごほうびとして、僕のわがままを一つくらいはきいてくれるかもしれない。そう思って、とにかく頑張った。

両親はとても頭のいい人たちだ。どちらも一流大学を卒業し、そして同じ一流の大企業に務めるようになり、どんどん上のポジションに就き、お互いが惹かれあい、交際にいたったようだ。しかし、一つ誤算があった。僕という存在が、母の子宮の中に芽生えてしまったことである。そして、さらなる誤算が生じてしまった。それは、僕が両親とちがって、頭の出来が悪かったということである。

両親は、結婚はしないで、あくまでお互いを高めあい、価値観を共有できる関係のまま、交際を進めていく、という考えがあったようだ。だけど、子供が出来てしまった以上、世間体もあるし、僕を産むしかないという結論にいたったようだ。子供をおろすわけにもいかなかったしね、と母が愚痴のように言っていたのを、ちらと昔聞いてしまったことがある。

まあ、せめて、もう少し、出来のよい子供として生まれていればなぁ、と父が返答していた。

僕は、お受験に失敗したのである。

それ以来、両親はすぐに僕というものを諦め、最低限のものは僕に提供してくれたが、それ以外、僕に何もしてくれることはなかった。

そのころからだろうか。僕は、何にも興味というものを持てなくなっていった。ただ、両親、教師が提供してくれるものと課題を受け取り、受け入れ、また、こなしていった。

成績は、並み。運動能力も突出したものはない。顔もあまり人の印象に残らない、カオ。そのまま、流れるように、公立の中学、高校、私立の中堅大学と僕は足を運んで行った。そして、その時の流れと共に、僕は、この世界に生まれてきた意味が、あったのだろうかと疑問に思うようになった。

栄養補給のための食事、体力を回復するための就寝、単位を落とさないようにと、義務的に行う課題、そして月一度のマスターベーション。僕には、これらしかなかった。

たまに、「恋」という言葉が頭の中に浮かぶ。しかし、それは、僕にとって単語であると以外に意味をもたない。せめて、「恋」、これがあるだけでも、僕の人生は違うものになるのではないか、とも思うことがある。しかし、それ以前に僕は他人とできるだけ関わりたくないのだ。

・・・・・ただ、最近、こんな状態の、僕自身に、思うことがある。

-こんなに何にも興味を持てずただ流されるまま行動し、しかも、他人とは関わりたくないと思っている僕が、生きている意味なんてあるのかな-

一日いちにちが過ぎれば過ぎるほど、僕は自分が生きているということに、意味がないような気がしてきた。

というより、こんなにも世間から逃れたいと思っている僕がこの世に生きているということ、それ自体が、この世界に、迷惑をかけているのではないだろうか、とも思うようになってきた。

僕という一人の人間が生きているだけで消費される、食物、飲料、資源、お金・・・・。それらは、いかほどのものであろうか・・・・。

ここ日本という国で、僕が、これまで飲んでは排尿した水というのは、世界で本当に生きたいと思っていても、きれいな水すら飲めない人々にとっては、それはもう、潤沢な量の水なのではないだろうか。もちろん、僕がこの国で今すぐ死んで、水を飲まなくなったとしても、その分、そういう人々のところに水が供給されるわけではない。・・・でも、そんなことを、考えれば考えるほど、僕は、自分が生きているということが、罪、そのものなのではないかと思ってしまうようになっていった。

そして、僕は、どんどん、僕自身を拒絶するようになった。

いっそ、死んじゃえばいいのかな・・・・。
そんなことを思いながらも、僕は大学に行くために、電車にのり、揺られ、最寄りの駅へと向かう。最寄駅についたら、人の流れに合わせて、下車し、プラットフォームを歩く。少し、出口が遠い。

電車から吐き出される人が一気に、階段へと向かう。僕もその中のぐちゃぐちゃした人の塊の一部分となる。嫌だ。嫌だ。

僕は、前の人の足取りに合わせて、下を向きながら階段を上る。何者にも反抗しないで、ただ、流されるように。すると、突然、僕の前を上っていたサラリーマンの皮靴がぴたっと止まった。僕も、はっとして、止まる。全くその足は動かなくなった。僕は、上をみた。すると、驚く光景がそこに広がっていたのである。

階段を上っていた人たちが、皆足をとめ、僕のほうを、振り返ってみているではないか。
そして、ずかずかと僕を避けるように皆が階段を下りていくではないか。

何が起きたのか僕は不安になって、その人たちと同じように階段をおりようとするが、おりた人々が、僕の下で固まって僕をおりられないようにしている。

皆とても無表情だった。でも、確実に、皆の目線が、僕に、集まっている。

「な、なんなんですか?」僕は、思わず声を、発した。

すると、先ほど僕の上を歩いていたサラリーマンが腕をあげ、指をさす。僕は振り返る。すると、最上段の場所あたりに、ブラックホールを彷彿とさせる渦巻いた黒い穴ができているではないか。これは、いったい、なんなのだ。僕は、混乱と恐怖で、震え、身動きがとれなくなった。これは、悪い夢なのではないか。僕は、古典的な方法だが、頬をつねってみた。イタイ。これは、どうやら本当に起きているらしいことみたいだ。そんなことをしていると、サラリーマンが僕に向かって、話しかけてきた。とても、無機質で抑揚のない声で。

「青年。このまま、階段を上りきれば、きっとお前の望む、『死の世界』へと行ける。そう、冥界へと。そう、この階段を上りきった先には、お前の望む世界が待っているのだ。さあ、行くがいい。お前という存在がなくなったとしても、誰も気に留めない。なぜならば、お前自身がそれを望んでいるからだ。そんな人間は生きている意味などない。私たちは、お前にとっての、最上の世界への入り口を準備したのだ。さあ、行くがいい。お前の望む世界へ。お前の望み通りの世界へとその暗黒は通じている」

サラリーマンはそう言い終えると、腕をおろし、じっと僕のほうをやはり見続けた。他の人々も同じだった。灰色の表情で、じっと、僕を見つめている。

僕は、とりあえず、叫んでみた。駅員に声が届くかもしれない。しかし、全く何の反応もない。いったいどうなっているんだ。周りを見渡し、僕は、そこで異変に気が付く。

人々の間からちらっと見える先ほど降りた電車が、ドアは閉まってはいるものの、全く動こうとしてない。中にいる乗客も完全に「停止」している。

どうやら、僕、そして、僕を階段の下におりさせないように固まっている人々と、上で渦巻いているブラックホールのような穴だけが動いている。つまり、この階段の空間以外の世界の時間は、止まっているようだ。

僕は、恐怖とこのあまりに異常な状況にどう対応していいのかわからなくて、しばらくじっとしていた。

一度人をかき分けておりようとも思ったが、それは無理だとすぐにわかった。あまりにも人が密集しているからだ。それに、人をかき分けられたとしても、時間が静止した空間に入ってしまったら、僕自身の時間も止まってしまうのではないかいう考えが頭をよぎり、よけいにそれは怖くてできなかった。

そんなことを考えているうちに5分は経過したのだろうか、そのままたたずんでいると、先ほどのサラリーマンがまた無機質な声で僕に言った。

「何を悩んでいるのだ。お前は、お前自身で、お前自身を否定し、この世にいても意味のない存在と定義づけたのではないか。大丈夫だ。あの暗黒を通り過ぎる時、何の痛みも生じない。ただの道しるべだ。何も悩む必要などない」

サラリーマンはそう言い終えると、またぐっと口を閉じ、僕をやはり見つめた。

そういうことじゃない。僕はそう思いながら、彼のいう暗黒をみる。渦巻く大きな黒い穴。

その穴を通り抜けた先には、僕が望む世界が広がっている-

そう、それは、誰にも会わずに、誰にも迷惑をかけずに、ただ一人で完結できる唯一の世界、「死の世界」。そこに、行けば、今までの苦しみから僕は一瞬にして解放され、誰のことも気にしなくてすむのだ。そうだ、それほどまでに、理想の世界などあるだろうか。

そうは思うものの、なぜか、僕は自分の足を動かすことができずに震えていた。とても、震えていた。

何故なんだ。僕は僕自身が本当にわからなくなってきた。あの穴を通り過ぎれば、僕の理想の世界が待っているというのに、僕は、何に対して躊躇っているというのか。何に、恐怖を覚えているのか。

それでも、とにかく、今のこの状況を打破するには、あの穴を通り過ぎるしかないようだ。

僕は、なんとか、一歩ずつ足を動かし、階段を上っていった。だんだんと黒い穴が僕の目の前で大きさを増していく。そして、あと一歩というところまでなんとか上ることができた。僕の皮膚からは尋常ではない汗がふきだしてきていた。

あと一歩。僕の理想の世界へと、僕は、足を踏み入れる。

その瞬間、僕の中である感情が芽生えた。

-死にたく、ない-

僕は、暗黒の入り口の渦に吸い込まれた。否応がない力だった。だが、痛みはなかった。というよりは、その暗闇の中は温かく、心地よかった。
僕は、目を閉じて、その渦巻く世界に完全に飲み込まれた-


感覚としては、1分ほどの時間が経った後、僕はおそるおそる目を開けた。すると、急に体が、ぐぅっと引っ張られる感覚となった。コンクリートの地面に僕の足がしっかりとついているのがわかった。

そこは、どうやら、階段を上りきったところの踊り場のようだった。階段をのぼってくる多くの人々が僕を立ち止まっている通行上の邪魔者としてちらっとみつつ、どんどん改札へと流れていった。

一体なんだったのだろうか。ここが、死の世界?いや、それは、どうやら違うみたいだ。しっかりと、体の感覚が残っている。というより、身体というものは、こんなにも質量をともなっているものだったのか、と思えるほど、僕の意識に密着していた。

すると突然、激しい耳鳴りがした。そして、その耳鳴りの中から、あのサラリーマンの無機質な声が響いてきた。

「これが、お前の理想の世界だ。お前にとって、『生きる』世界が理想の世界だったのだ。先ほど、お前がお前自身の中にある得体のしれない何かに恐怖した理由は、そこにある。今はわからなくても、お前がお前自身で導いたこの生きる世界が、なぜお前にとっての『理想の世界』なのか、その答えを自らの力で導くのだ」


そんな言葉が聞こえた後、耳鳴りはおさまった。

一体なんだったのだろうか。僕は、改札を抜け、いつもの道を歩く。

-お前にとって、『生きる』世界が理想の世界だったのだ-
一体、どういうことなのか。僕は、こんなにも自分がこの世に生きていても、意味のない存在だと思っているのに・・・・。ただ、あの恐ろしく不可思議な時間の中ではっきりと明確に生まれた一つの感情がずぅっと僕の胸の中で、炎を燃やしていた。

-死にたく、ない-

僕は、また、今日も、大学へと足を踏み入れる。

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